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05.04
Sat

人間の巣が密集する町中にも野の花が咲く。
武蔵野は太田道灌や徳川家康が狩をした原野だったという。
中央線武蔵境駅近くの玉川上水の土手に国木田独歩の“武蔵野”
の一節を刻んだ文学碑がある。この辺りが市街化したのはそう遠い昔ではない。
町の中に野の花が咲くのも不思議ではないのかもしれない。
春夏秋冬それぞれの花が咲くが、やはり早春の花が感動的。
寒さに震えながら春を待っている。ふと気が付くと春の花が咲いている。
何時の間にか春が来ていた!感動この上もない。花が春の到来を教えてくれる。
珍しい花々ではないが一年振りに見る花は新鮮できれい。

町に咲く花は街路樹の下、公園の植え込みなど乏しい土に逞しく
咲いていた。スミレの類はコンクリートの隙間にも咲いていて驚かせた。

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クサフジ(草藤)マメ科
2019年4月8日 中央線武蔵境駅周辺で写す。以下同じ

住宅街に咲いているのは初めて見た、それも大群落。
道路の拡張で取り壊したアパートの空き地。
鮮やかな青紫の長い房、息を呑む美しさ。成程、草の藤!
藤は垂れ下がって咲くが草藤は誇らしげに上を向いて咲く。
歩けないのは当たり前だが上を向くと涙がこぼれるからではない。

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タチツボスミレ(立坪菫)スミレ科 

タチツボスミレは茎が立ち上がり花を咲かせる。他のスミレは茎のないのが多い。
根元からいきなり葉と花が立ち上がる。
町中から奥山まで至る所に咲いている。スミレは優しさを誘う花なのだろう。
童謡に歌われ、宝塚の歌姫はスミレの歌をうたい人々の胸を締め付けた。

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スミレ(菫)

スミレ名には頭に何々スミレと付くがこのスミレは何もつかないただのスミレという名。
数ある種類のスミレの中で姿、形、色合い全てトップクラス。
町の中に咲くのだから不思議。
「春の野に菫摘みにと来しわれぞ野をなつかしみ一夜寝にける」
万葉の歌人、山部赤人の歌だそうだ。少女ならぬオジサンがスミレ摘みとは、
と思わずニヤリ?だが、昭和初期の童謡は口ひげを生やしたオッカナイ
おじさんの作が多い。おっかなそうだが矢張り人間は元来優しいのだろう。
山部赤人の歌は能「求塚」でも歌われる。求塚は凄惨な恋の物語。

一人の女に二人の男が同時に求婚する。女は生田川のオシドリを矢で射させ
当った方を選ぶという。二人の矢は同時に同じオシドリに当たった。
女は二人の男に夫婦中の象徴のオシドリを殺すという無惨な所業を強要した
己の罪を悔い生田川の身を投げる。二人の男も女の墓前で差し違える。
女の霊が僧にこのオシドリの話をする。他人事のように語っていた女が
「その時わらわ(私)思うよう、無惨やなさしも契りは深緑の、水鳥までも我故に
さこそ命はオシドリのつがい去りにし哀れさよ」と我が事と語り出す。
早春のさわやかな生田川の岸辺でスミレの歌を歌い若菜を摘む心豊かな情景が
突如凄惨な空気に包まれる。語り始めた女の語調が突然変わり爽やかな空気が
凍り付き身が竦む。

女は地獄に堕ちる。地獄の過酷な描写は比類がない。

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スズメノエンドウ(雀の豌豆)マメ科

カラスノエンドウより小ぶりだからスズメノエンドウだそうだ。

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カラスノエンドウ(烏の豌豆)マメ科

カラスは役立たたない意の代名詞。食べられないエンドウ豆でカラスノエンドウ。
とは云うが若芽や若い実のサヤは結構いける。
カラスは嫌われ者、ゴミ収集車が来る前にゴミ袋を食い破って食い散らかす。
だが愛嬌もある。幼鳥から育てると人の言葉を喋る。オウムより上手。
カラスは昔から嫌われ者だったようだ。
〈烏てふ、おおほそ鳥も心して、うつし人とは誰か言う〉と能「砧」で謡う。
“カラスという大ウソつきの鳥が夫をまともな誠実な人だという”
「砧」は一途に夫を慕う女を描く。

訴訟で上京して三年、帰らぬ夫を待ち続ける妻。この暮れには帰ると知らせを持って
侍女が帰ってくる。妻は三年の間夫を待ち続けた苦しみ恨みを侍女にもらす。
静まり返った秋の夜、砧の音が聞こえてくる。妻は唐土の故事を思い出す。
「異民族に捕らえられた夫を偲んで妻と子が高楼の上で砧を打った。
遥かの故郷の砧の音が夫の夢に聞こえた」
二人は砧を打つ「砧の音、夜嵐、悲しみの声虫の音。交りて落つる露、涙。
ほろほろ、はらはらといづれ砧の音やらん」
晩秋の月が冴えわたり、寒風が音を立てて吹き去る。砧の音、悲しげな虫の声。落ちる涙。
いずれが砧の音だろうか。

都から知らせが届く。夫はこの暮れにも帰られないと。
妻は失望のあまり床に就き病を得、世を去る。

妻の許に帰った夫、嘆いても詮無いと云いつつも、せめて妻の霊を招き
言葉をなりとも交わそうと梓の弓をひかせ霊を呼び寄せる。
梓の弓に引かれて現れた妻の霊「末の松山千代までと、かけし頼みは徒波の
あら由なや虚言や、そもかかる人の心か」と夫の非情を咎め「烏ちょう、大おそどり」
と夫に迫り、一途な女の恋の果ての激情を見せる。

砧
「ほろほろはらはら、いずれ砧の音やらん」砧を打つ二人

能「砧」の詳しい解説はこちら
「求塚(もとめづか)」はこちら





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