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05.17
Sun
裏高尾は字の如く賑やかな高尾山の裏、訪れる人は少ない。
けっこう珍しい花が咲くので知られている。
川沿いに獣道程度の遊歩道もありここでも四季の花が咲いている。

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ハナウド(花独活)セリ科 2020年4月29日写す。以下同じ

純白の小さな花が集まって傘を広げたように咲く。セリ科の花は、形がよく似ているが
形もよくきれいな花はハナウドが一番かもしれない。
セリ科には独特な香りがある。人参、セリ、ミツバ、パセリ、セロリなどのセリ科の野菜も独特な香りと風味がある。
最も身近な人参は改良が進み香りも味も薄くなった。
昔の人参は味も香りも濃く、子供の嫌いな食べ物の代表だった。

父親は子供を叱ることは稀だったが食物には煩かった。
“出されたものは残さず食べろ、ありがたいと思って”が口癖だった。
母の実家の夕食に人参が出た。父親の顔を思い浮かべ嫌いな物からと急いで食べた。
“お前ニンジン好きなの、感心な子だね”とオバアちゃん、追加が出た。
母親はなにも云わず微笑んで見ていた。苦手の食べ物に遭遇する度に思い出す。

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キランソウ(金瘡小草) シソ科

葉を地面に這うように広げ、白い毛が目立ち何となく気味が悪い。
深い紫色の花がきれいなのに、おかしな姿が不思議だが名も不思議。
金瘡とは刀傷、切り傷と漢和辞典にある。昔、傷の治療に使ったのだろうか、

オバアちゃんの薬と云えば“富山の薬売り”の薬とドクダミやゲンノショウコ
などの民間薬だった。子供の頃、生傷が絶えなかった。
オバアちゃんがドクダミの葉を生傷に当ててくれた。
キランソウの葉を当てて貰った記憶はない。
別名、ジゴクノカマノフタ(地獄の釜の蓋)。こちらの方がピッタリだと思う。

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イチリンソウ(一輪草) キンポウゲ科

ニリンソウに遠慮するようにひっそりと咲いていた。
白い花はニリンソウより一回り大きく花弁の数も多く清楚できれい。
環境の変化に順応できない花だそうだ。
この辺りも開発が進み、いずれ消える運命かも知れない。

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ニリンソウ(二輪草) キンポウゲ科

一輪草には姿、形は劣るが、環境の変化もなんのその“おらの春が来た!”
と叫ぶかのように、大群落を作って咲きほこる。
キンポウゲ科の植物は毒草が多いそうだが、ニリンソウは食べられる。
葉は気味わるいが長い葉柄はみずみずしく美味しい。

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タツナミソウ(立浪草)シソ科

一列縦隊に並んで一歩方向に向いて咲くおかしな花。
花の形が打ち寄せる荒波のようだという命名だそうだ。
花から荒波を連想する、多分植物学者の命名だろうがロマンチストだったのだろうか。
野草の花は咲いている場所によって色や姿に“え?同じ花?”と思える程の違いがあることがある。
日のあまり当たらない木の下に咲いていた。日影の所為か葉色もみずみずしく、花色も鮮やかで、
まさに深窓の令嬢の装いだった。
荒波と云えば玄界灘。能「玉鬘」では荒波の玄界灘を手漕ぎの小舟で筑紫から脱出する
玉鬘一行の苦難が語られる。出典、源氏物語、玉鬘巻。

つい最近、知人から「哀しみの女君たち」という源氏物語の女性を語る本をいただいた。
能には源氏物語を出典とする名作秀作が数曲ある。
能に携わる者の参考にと贈られたのだろうと開いて見た。
玉鬘の文字が目に飛び込み引き込まれるように読んだ。
明年の秋に能「玉鬘」を舞う予定だったから。

光源氏に引き取られ、まだ田舎っぽさを残す玉鬘が六条院の女達の様子を見、
洗練されて行く姿が書かれてあった。
能「玉鬘」は狂女物。若い女性特有の夢幻的、情緒的に甘美な物思いが昂じた
“狂”であるとするのが一般的のようだ。
初めて玉鬘を舞ったときは筑紫からの脱出の恐怖、長谷寺での母の侍女、
右近との邂逅、薄幸の母夕顔への思い故の物狂いであろうとして舞った。
「悲しみの女君」の語る六条院での玉鬘の様子に全く思いが至らなかった。
“花の六条院”での田舎っぽさからの脱出の苦しみは女性として、
それも上流の女性として計り知れないものだったに違いない。

能「玉鬘」は評価の高い曲ではない。能の作者はほとんどが能の演者でもある。
「玉鬘」の演出には色々な工夫がなされている。演ずる側にはそれなりの重きの
ある曲という事だろう。作者と能研究者の立場の違いとも思われる。

能「玉鬘」の前場のシテは、小面または孫次郎の面を着、上着の縫箔を脱ぎ掛け腰巻に
現れ「程もなき、舟の泊や初瀬川、上りかねたる岩間かな」と謡う。
初瀬川の激流を漕ぎ登る態でさながら筑紫脱出の響の灘の荒波を連想させる。
筑紫からの脱出、右近との邂逅を語る姿が狂おし気に悲しげにさえ見える。

後場は神がかった面、十寸神に唐織の片袖を脱掛け、髪の一握りを前に
垂らした異様な姿で現れる。「九十九髪」と謡い、狂は何故であろうかと
思いを回らす猶予をも与えず、想い乱れる言葉を連ね舞い狂う。
後に光源氏の養女となり花の六条院のヒロインとなる美女、玉鬘は語られる事はなく
「心は真如の玉鬘」と留める。

東京金剛会例会能 (65)(撮)前島写真店☆
「九十九髪、我や恋ふらし面影の」舞い狂う玉鬘

能「玉鬘」の詳しい解説はこちら

「哀しみの女君たち」 豊田芳子著 
発売元 揺籃社
TEL(042)620-2616 FAX 042ー620-2616
源氏物語の女性たちを女性の目で的確に捉え、興味深い。
原文はもちろん現代語訳でも分かり難い源氏物語の中の人のつながりも分かりやすい。

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