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03.21
Sat
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ヤブツバキ 2015年2月28日伊東市ツバキ園で写す

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ヤブツバキの大木、上は河津桜

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ヤブツバキの落花

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交配種 胡蝶ワビスケ

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交配種 太郎冠者

暖地では十二月から咲き始める。花の少ない時期に貴重な花だ。冷え込みのきびしい1,2月、生垣などで花びらの縁が黒く霜焼けしているのを見かける。いたわしい。暖かい日差しを待って咲けばいいのにと囁きたくなる。
花びらは厚いが、柔らかな色合いがいい。美女の白い歯並みのように、きちんと並んだ雄シベがきれいだ。その先端の、黄色い花粉がまたきれいだ。
野性のつばきをヤブツバキと呼ぶそうだ。ツヤ光りする濃い緑の葉に、真っ赤な花が魅力だ。暖地に「大ツバキ」と呼ばれる花も実も大きいツバキがある。ピンク色で美しさには少々劣るが盛大に花と実をつける。子供の頃、水で揉んで泡立て遊んだのを思い出す。

昔から愛された花だろうか交配種が多い。対馬には色々なヤブツバキがあって交配の親にすると聞いたように思うが本当かどうか自信がない。
日本海側の寒い地方にはヤブツバキはないと云われていたが数十年前に発見された。雪ツバキ、と聞いた記憶があるがこれも自信がない。
伊豆七島のどの島か忘れたが防風のため椿を植え、副産物の椿油の生産が全国一だという。
四国では「カタシ」と呼ぶそうだ。薩南では「カターシ」だ。材が堅いからだという。磨いて床柱にしたりする。昔の人も堅いカタシを利用したらしく、五千年前の遺跡からヤブツバキで作った櫛が見つかったそうだ。

サザンカ、花弁が薄いがツバキと区別出来ないほどよく似ている。油を取ったり材の利用も同じだ。
花の散り方が違う。花びらがばらばらに散る。
ツバキは花弁が底で“くっついて”いるので散る時は全部一緒にポトリと落ちる。
「椿落ちて昨日の雨を落としけり」蕪村の句だそうだ。新古今調の匂いもするが杯状の花の特徴をよく写していると思う。
昔、武家屋敷には植えなかったと聞いたことがある。落ちる花を武士の首にたとえて忌み嫌ったからと。
黒沢明の「椿三十郎」で隣の武家屋敷からめちゃくちゃに切り落とされた椿の花が流れて来るシーンがあった。いまだに頭の中に居座って離れない。

「山寺の石のきざはし下り来れば椿こぼれぬ右に左に」落合直文の一首。
少年の頃、教科書か何かで覚えたのだろう。田舎の鎮守の森にもツバキがあってその落花を見て、なるほどと覚えたのだろうか。ただ覚えていたのは「左に右に」だった。記憶の曖昧さに苦笑が出る。
ツバキの落花は盛大。新しいのや半分腐りかけたものなど美醜こもごも。キザな云い方だが人生を思わせないだろうか。

落花が散り敷いた美しい情景を謡う能がある。「葛城」だ。
「笠は重し呉山の雪、靴は香ばし楚地の花」漢詩の一節を巧みに取り入れ美しく謡う。元の詩の幅を豊に超え情緒が溢れる。
落花が美しいのは梅や桜。三好達治が「甍のうへ」で歌ったのも桜。
だが梅も桜も散った花びらは踏んでも匂わない。ツバキだったら匂うかも知れない。

能「葛城」は雪の能。葛城の明神参詣の山伏が大雪に立ち往生しているとこの山に住む女が庵に案内する。先に述べた詩は、先に立って案内する女の、雪にまみれた姿を謡ったものだ。
女は実は葛城の明神だった。役行者に縛られ洞窟に閉じ込められ、その苦しみを山伏に切々と訴える。森閑と静まりかえった大雪の庵の中の情景が心に沁みる。能の優れた作劇法だ。
後場では月下の大雪原に神代の高天原が出現、神々の興宴が繰り広げられる。

能「葛城」の詳しい解説は「能曲目の解説」をご覧下さい。

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