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05.28
Sat
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奥多摩方面の残照。2016年5月19日、府中市是政橋から写す。

次第
砂内桂馬。団塊の生まれ。
初夏の払暁。夜の帳が汚れた昼の空気を濾過したのだろう、清浄だった。住宅街はまだ目覚めないのか、物音も希だった。桂馬は静かに歩く。肩に老いの気配を乗せて。立ち止まる。道は向うが霞んでいる。道の向こうを凝視する。懐かしい景色が浮かびあがる。遠い過去の一片が浮かびあがる。それは残照,美しく輝き静かに去っていく。

前回までのあらすじ
桂馬は希有なまでに五代温子に巡り合う。温子が山の草花が見たいという。二人は相模湖から裏高尾のルートを歩く。二人の心はさらに近づいた。下山した二人は高尾駅前の居酒屋、浅川食堂の暖簾をくぐった。桂馬の故郷や温子の故郷の話題などで盛あがった。
薄暗い高尾の駅前は静まり返っていた。桂馬は温子の肩を抱き、両肩に手を乗せ温子を見つめる。「これでおしまい?」温子が震え声で呟く。「そう」と桂馬「どうして?」「もったいないから」温子は桂馬の誠意を知る。温子は郷里に帰り両親に打ち明けた。
温子は、郷里選出議員の事務所を辞め、父親の薦めで鉄鋼会社に就職する事になった。それを機に通勤に便利な荻窪に引っ越す事にした。荷物の運搬を桂馬が引き受けた。荷物の状態を確かめる為に桂馬は温子の部屋に行く。時間を間違え帰る術がなかった桂馬は、温子の部屋に泊まらざるを得なかった。

出会い(八)
翌朝。桂馬は電撃に打たれたように目覚めた。自分の居場所がしばらく分からなかった。目を二、三度しばたいた。見慣れない部屋の景色が、滲み出てくる記憶と結びついていく。台所から物音が聞こえる。温子が朝の支度をしているのだろう。桂馬はダラリと起き上がった。ベッドが軋んだ。桂馬は大きく吐息をついた。座布団を二つ折りにした枕に再び頭をつけた。想いが駆け巡る。
 昨夜の敷布団は代用の座布団二枚だった。座布団は狭く短く、時間につれて隙間から冷たい空気が侵入した。
「一緒に寝ましょう」という温子の声に戸惑ったが、温子には含むものが感じられなかっし、あどけなささえも感じた。温子の布団に潜り込んだのは、さほどの抵抗もなかった。
背中を向けていた温子が、ゆがんだ顔で振り返った。桂馬が温子の頬を人差し指で突いた。「クックッ」、押し殺して笑いながら再び背を向けた。
高校の国語の先生の話が甦った。「光源氏は少女の紫の上を理想の女性に育てようと引き取った。源氏は紫の上と床を一緒にしながら根気よく紫の上の成長を待った」という話だった。
高校生の桂馬には先生の話の意味が判らなかった。判る筈もなかったが、いつまでも頭の中に蟠っていた。
桂馬は布団の暖かみを感じながら、王朝の貴公子の豊かな精神生活に想いを膨らませていった。そして空想の長い手を伸ばし温子を抱きしめた。

「あら、お目覚め?歯磨きセット台所に用意してあります、どうぞ」
ナベを抱えて温子がほほ笑んで立っていた。大きめの白い割烹着が不似合に、母親の真似をしているように見えた。
二人は朝の座卓に向き合った。
「桂馬さん、よく眠れました?私は狭かったけどぐっすり」
「僕はぜんぜん」
「どうして?」
「当たり前だろう、若い美人と枕を並べたンだよ、眠れる訳ないだろう」
「美人は、有り難う。だけど眠れなかった、は嘘です。気配がしないので覗き込んだの。微動もしないし、寝息も聞こえなかったわ。死んでるのではないかと怖かった。何回も覗き込んだのよ」
「ところで君、怖くなかったの?」
「だから怖かったの」
「いや、そうじゃなくて」
「では何?」
「僕がオオカミになったらどうする?」
「なりません」
「そんなこと分からないよ」
「なりません。桂馬さんは“もったいない”の人だから」
「男の下半身は知性や人格と関係がないというよ」
「なりません。絶対なりません」二人は箸をとめ見つめあった。
「はっはっはっは」「フッフッフッ」
二人の笑いがすべてを吹き飛ばしてしまった。

引っ越しの日は穏やかに晴れ、春を感じさせた。引っ越しは思わぬ時間がかかるものだという森田の言葉にしたがい早めに家を出た。車は前日に借りておいた。
温子はもう荷造りを始めていた。割烹着に姉さんかぶりが可笑しかった。
「アネさんかぶりが似合いますね」
「ハイ、大人ですから」温子は、力を込め、口をゆがめて紐を縛りながら、振り向きもせず応えた。
馴れない荷造りは意外と時間がかかった。ベッドの解体にも時間がかかった。ベッドは一カ所、溶接が剥がれていた。軋んだのはその所為だろう。
「ベッド、壊れてるよ。捨てる?」
「いえ、捨てません」
「先輩のお下がりだろう?新しいのにしたら?」
「いいえ、五年間、私の愛おしい夢を生んでくれた母親です。親不幸はできません」
森田が云ったように荷物は意外に多かった。ワゴン車いっぱい、無理に詰め込んだ。
「あら、私の大事なお供を忘れていました。私としたことが」
「何?まだあるの?もういっぱい。余裕なし。以下却下!」
狭い庭の奥のガラクタが積んである奥から古びた赤い自転車を引いて出て来た。
「このお供は、私が練馬界隈をくまなく探検する時、いつも嫌がらず素直にお供してくれたのです。置いていくなんて。そんな非情なことは人間としてできません」
「ハイハイ。そうですか。了解。では二回にしよう。無理に詰め込んだから壊れる物もあるかも知れないと心配していたんだ。丁度いい程度に荷物を少し下ろそう」
環八通は日曜でも込んでいた。
「住み慣れし我が第二の故郷、練馬よ、イザさらば。でもでも、いい気分ですネ~。只今ファーストクラスでパリに向かっております。眼下の雲が頬笑んでいます」
「お安い夢ですね。破れかけたシートに、でこぼこクッション。左右の景色は雲どころか煤けビル」
二人の掛け合いは引っ越し先まで続いた。

アパートの前で車を止めた。隣の大家の犬が野太い声で二,三声吠えた。待っていたかのように大家の小母さんが出てきた。温子が車から飛び降り、小走りに大家の玄関に向かった。
桂馬も下りた。道路に出てきた大家はしばらく温子と話し込んでいた。まるで母娘で話しているようだった。無愛想な表情の大家の顔が頬笑んでいるのだろうが、ゆがんで見えた。
契約も済んだし、色々注意することも嫌というほど聞いた、何を話しているのだろう。
大家の小母さんは桂馬の顔も見ずに、
「車は庭に入れて下さい」小母さんの無愛想は、オレに意趣でもあるのだろうかと桂馬が思ったほどだった。
「ハイお部屋の鍵」温子も大家の小母さんに向かったまま差し出した。
桂馬は小物から運び入れはじめた。二階への、きゃしゃな鉄骨の階段が鋭い音をたてた。
部屋は契約の時見た印象より広く感じられた。靴脱ぎは流石に狭く1メートル四方足らず、畳四枚程の細長い、台所付の板の間に続いていた。左奥に小さな風呂場、突き当たりは六畳だった。桂馬は窓を開けた。下は大家の庭が拡がっていた。芝生の周りに春の草花が咲き始めていた。スズランの一群がほどよい場所を占めていた。
「なるほどスズラン荘か」桂馬は苦笑した。先ほどの意趣ありげな小母さんの顔とスズランがどうにも結びつかなかったからだ。
「ごめんなさい。すっかり話し込んじゃって」温子が階段を鳴らして駆け上ってきた。
「奥さんね、大分の人だって。英彦山の麓の農家。残念でした、北海道ではありませんでした。旦那さんはここの人で昔は農家だったそうよ。奥さんネ、怖そうな顔だけど優しい人よ。このアパートは只今住民ゼロ、駅から遠いのと女性専用だからかネって笑ってた。でも少ない方が静かでいいですって」
温子は靴をもどかしく脱いで
「あら、結構広いわね。練馬のアパートと大違いね、月とスッポン」
「わあ~、お庭がまたまたいいわ~」桂馬を振り返り、
「私のお庭と思えばいいのよね、リッチ、リッチ」
「早く荷物、中に入れなくちゃ、荷物もお部屋を早く見たいと思うから。桂馬さんご苦労様です。お願いします」
「中に運び込むだけにしにして自転車と、“置いてけ堀”の荷物を取りに行こう」

二回目を運んで車を返すと、日は傾き、夕暮れが近かった。
「引っ越しのお祝いしましょう。荻窪駅のガードの手前にOKと書いたスーパーが見えたわよネ。行って見ましょう」
「OK牧場か。OK!馬に乗って、いや自転車で行こう」
古自転車のペダルは重くガラガラと音を立てた。後ろに乗った温子がはしゃいだ。
「桂馬さんの背中、暖ったかい」
「止せ、危ないから」顔を振り向けた途端、チェーンが切れた。
「寿命よね。仕方ないわ。よく尽くしてくれました。私の家来。お礼を云います」手を合わせ、ぺこりとお辞儀をして
「形ある物は必ず滅す。お釈迦様の教えよネ。ず~と前、故郷の和尚さんに教わったの」
だらりと垂れ下がったチェーンを見つめて呟いた。
「よかったわ、OK牧場の近くで」「ここで待っててネ。帰りに曳いて帰りますよ」桂馬が道路脇に寄せた自転車に温子が呼び掛けた。
「骨折の馬では決闘は負けだネ」
「え?何それ?」
「OK牧場の決闘。西部劇。ジョン、ウエイン。骨折の馬を曳いてでは勝ち目がないから、ここに繋いでおこう」
「あ、そうだ、骨折の馬で思い出したわ」
「なに?」
「ずっと考えてたの。桂馬さんでは呼びにくいから馬さんではダメ?」
「馬かア。ウマくないこともないけど、だったらカメの方がいいナ」
桂馬は子供の頃から渾名が亀だった。万事、反応がにぶく大概の事に驚かなかったからだ。
カメのアダ名は高校生まで続いた。当時は嫌だなと思ったこともあったが今では懐かしい思い出となっていた。
「私が曳いて歩くのにはウマの方がカッコウいいけどカメも可愛いわね。ではカメさんにします。何事も焦らず、亀のようにゆっくり歩きましょう。では私にもつけて。アツコやオンコでは呼び難いでしょう」
「だったら鶴だよ。鶴は千年、亀万年。お互いおめでたいからピッタリだろう?」
「八戸小歌の三味線の間の手をネ“♪鶴シャン亀シャン鶴シャン亀シャン鶴シャン亀シャ~ン鶴亀シャ~ン♪」って唄うんだ。
「あら、いいわね。鶴シャン亀シャンに決まり」
日曜の夕方のOKストアは混んでいた。出来合いの惣菜を買うことにした。
部屋の中は未整理の荷物が散乱しているし、台所の水も永い間使っていないようで使うのがためらわれたからだった。
温子が環八通りに、惣菜のカンバンがあったのを車から見つけたのを思い出し、その店の方が作り立てだろうとその店で買う事にした。スーパーでは温子の発案で白ワインと刺身を買っただけで中を見物して歩いた。

荷物を押しのけてスペースを作って座卓に向き合った。
「乾杯しましょう。先輩が置いていったグラスを持ってきた筈なのに見つからないの。お湯飲みでいい?」
「中味は同じだから何でも構わない、いいよ」桂馬は何につけ形には拘らない質だ。
「では、かんぱ~い」
引っ越し荷物の散乱した、引っ越したばかりの殺風景な、異様な中での食事は、返って二人に不思議な充足感さえ与えた。
「私ね、亀シャンに隠し事があるの」
「えっ、隠し事?なに?」
「ず~と黙ってようかなと思ってたけど。白状します。高尾で会ったとき亀シャン、初めて会ったような顔でしたよね。実は私はその前から亀シャンのこと知ってたの」
「えっ?」
温子は中央線の中で桂馬が居眠りして本を取り落として温子が拾ってあげたこと、変わった風貌の桂馬に興味を抱いた温子が正体を突き止めようと跡をつけ、西部新宿線の駅前のショットバーに行ったことを面白可笑しく話した。
「あ、あの時の。確か忘れ物の新聞紙の包みを渡したよね」おぼろげの記憶だった。
「そう。あれ、月下美人です」部屋の角の鉢を指差した。
「亀シャン、入り口のドアを開けて、私の顔をも見もしないで“忘れ物だよ”無造作にドアの外に置いたわよね。私、心臓が破裂するかと思う位ドキドキだったのよ」桂馬はニヤニヤ笑うだけだった。
「あら、驚かないの?さすが亀、あだな名の通りね」
夜の住宅街は車も希だった。時の流れも静かだった。
「明日は出張なんだ。多分早く終わると思うから、終わったら急いで来るよ。重い物など何とかしないとね」
「お願いします」
「途中まで送ります」
二人の靴音が気味悪く聞こえた。何処かで犬が鳴くのが微かに聞こえた。
馴れない初めての夜だ。心細いだろう。温子の心の中が伝わって来るような足取りだった。どちらからともなく手をつないだ。
南荻窪図書館が黒々と気味悪い姿を現した。
「ここでいいよ」
「ではさようなら」温子は俯いたままくるりと背中を向けて歩き出した。桂馬はしばらく温子の後ろ姿を見送ったが、急ぎ足で駆け寄り肩を並べた。桂馬は温子の驚いた顔を見ながら歩調を合わせた。
「アパートの前まで送るよ。」
「嬉しい。今夜は安心して眠れるわ」
温子が桂馬の腕を奪うように両手に抱いた。よほど心細かったのだろう。泊まっていくべきだろうか、衝動が駆け抜けた。
アパートの前で温子が両手を差し出し、
「ほんとは初めてのお部屋、とても怖かったの。でももう大丈夫。ハイ、亀シャンの気を下さい」
温子は桂馬の両手を握りしめ、
「ハイ、これでじゅうぶん亀シャンの気、注入されました。安心して眠れます。お帰りになって結構です」
桂馬は温子を静かに引き寄せ肩を抱いた。温子の肩が小刻みに波打った。両肩に手を置き温子をしばらく見つめた。
温子のうるんだ目に笑みが浮かんだ。
「今日も、、、もったいない?」
「ウン」
   つづく



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05.21
Sat
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大平高原から望む富士山。2016年4月29日写す。以下同じ。

大平高原は塩山市の国道140号線沿いにある三富温泉手前の山道を上がった所にある。
高原のほとんどが牧場跡。今は荒れ果てた草原。地元の人の話では富士絶景五指に入るそうだ。道は細く悪路。

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フデリンドウ リンドウ科

草丈五センチ程。透き通るような空色。不思議なほど可愛いのは、清らかな野の空気を吸ったからに違いない。群生していた。二本頂いてきた。ところが水をあげるのを忘れていた。翌日気が付いたがすでに萎びていた。諦めかけたが急いで水苔に包み水を含ませた。生き返った。野草は強い。フデリンドウは越年草。実になったら故郷に連れて行こうと思う。

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ウワミズザクラ バラ科

動物の尻尾のように穂状に咲く花は草本ではよく見るが木本では珍しいように思う。純白で清潔感あふれていていい。
不思議な名前だ。漢字で上溝桜。昔、亀甲占いでこの木の材の上面に溝を彫って使ったとあるが何のことだかさっぱり解らない。占いに使ったとだけ覚えて置くことにした。
蕾や若い実は塩づけにして食べるという。山里の珍味だろうか、食べたことはない。
熟した黒い実を果実酒にしたがさほど美味くなかった。

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サクラソウ サクラソウ科

日本の野山に咲くサクラソウを知らない人は多い。花屋にあるのはほとんど西洋サクラ草。
昔は川や池、田んぼの周りにふんだんに見られた。今では絶滅危惧種に指定されてもおかしくない。昔は荒川土手が名所だった。江戸時代、結構な造りの重箱に結構な肴を詰めて船で荒川を遡りサクラ草の花見としゃれ込んだそうだ。
江戸の武士は荒川土手の遠駆で珍しい色、形のサクラ草を持ち帰り交配して色々な品種を作り出したという。今でもその伝統は伝わり数百種に及ぶという。五月、花の頃、小さな東屋を建て自慢のサクラ草を飾る。

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ハシリドコロ ナス科

暗紫色の花は何となく気味悪い。毒草の先入観があるからだろうか。妖しげな魅力も感ずる。食べると錯乱して走り回るそうだ。それ故ハシリだろうか。トコロは山芋のような根茎を持つトコロ(野老)に似た根を持つから。
昔の話だが尾瀬から銀山湖に抜け、辺の小屋に泊まった。小屋の主人の話。渓流釣りの二人が美味そうに見えたハシリドコロの若芽を食べた。一人は川上に一人は川下に走った。
翌朝発見された時、川上に走った一人は素っ裸だったそうだ。河原の岩石が美人に見えたと云ったそうだ。本当らしからぬ話しだがハシリドコロの話として面白い。この話は事故だが今では自ら好んで薬物で狂乱を求める人がいて社会問題となっている。能では色々な理由で狂乱となった人を題材にした作品群がある。狂乱となった背景を展開させて面白い。能「蝉丸」は唯一、生来の狂人を描いた作品。

能「蝉丸」は一風変わった作品だ。延喜の治で知られた名君、醍醐天皇の皇女と皇子姉弟の物語。皇女の名は逆髪。生来の狂人で遠国をさまよい歩く。空に向かって逆立つ髪を子供達が笑う。逆髪は子供達に云う。下賎の身で皇女の私を笑うとは逆さまではないか。しかし逆さまは世の常だ。花の種は地下から芽を出し空中高くに至って花咲き実になる。月は空高くにあるが、水の底に映っているのもまた月だ。どれが順であり逆であるとは一概にはいえないとこう云うのだ。物の本質についての事だろうが、思い合わせて、人は心の持ちようで、いかようにも変わるものだとつくづく考えさせられる。
放浪のさまを舞う道行きが見どころだ。クセは元々居グセであったが後に舞クセに作ったと云うが見応えのあるクセだ。
逆髪の弟、蝉丸は生まれながらの盲目。父帝の命によって逢坂山に捨てられる。勅命を受けた廷臣は堯舜にも例えられる程の帝が我が子を山野に捨て置くとはと嘆く。蝉丸は父、帝が自分を山野に捨てるのは前世の行いがよくなく、この世でその償いをして後世の安楽を願う父の慈悲なのだと廷臣をたしなめる。世を達観した姿、皇子の気品が滲み出て胸を打つ。
逆境の二人の別れは哀切だ。逆髪はさまよい歩きでも何か慰みはあるが、盲目ゆえ一所止まざるを得ない蝉丸を気遣い去っていく。蝉丸は小屋の竹の柱に縋り見えぬ目で見送る。
能「蝉丸」の詳しい解説はこちら
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05.14
Sat
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2016年4月19日 写す。以下同じ。

神代水性植物園。都立神代植物園の分園。近くに深大寺がある。神代植物園は有料だがこちらは無料。
尾瀬の気分が味わえる。園内の高台に深大寺城址があり広場になっていてベンチもある。園内閑散、息抜きに持ってこい。

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サワオグルマ キク科
山間の湿地に咲く花。休耕田でも見かける。繁殖力が強いのだろうか。

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クレソン アブラナ科

大根やワサビの仲間だから当たり前だが少し辛い。オランダ芥子。クレソンはフランス語だという。ヨーロッパ原産。オランダはヨーロッパの総称として使われたのだろうか。
石垣島では“大きい”をオランダという。オランダおじさん、おばさんは大きいおじさん、おばさんと云う意味。その意味でよく似ている。
クレソンは明治初期、宣教師が持ち込んだそうだ。繁殖力が強く清流、どぶ川も区別しないで盛大に繁る。調理法も色々。生食でもよく、美味しくその上、身体にいいそうだ。

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ミツガシワ リンドウ科。ミツガシワ科に分類することも。

山間の湿地に咲く。涼しい土地を好むらしい。箱根で営業放棄のゴルフ場の、荒れ果てた池に群生していた。つわものどもが夢の跡の荒涼としたゴルフ場。それでもミツガシワの花は我が世の春を謳歌していた。リンドウ科だと云うが似ても似付かない。だが苦くて胃の薬というから、その点ではガッテン。
葉が三枚くっついていてその葉が柏に似ているので三つ柏。家紋に三柏があるが、これはこの花には関係なく、三つの柏だろうか。

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サギゴケ ゴマノハグサ科
湿地に生え珍しい花ではない。田んぼの畦などに多い。草の姿や花が可愛い。白花もある。花の形を鷺に見立てたのだろうか。それにしても苔が納得いかなかった。地を這うようにびっしりとはびこる姿が苔のようだからだそうだ。

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レンゲソウ マメ科

昔は田んぼ一面レンゲソウで被われていた。田植え前、すき込んで肥料にするため。
レンゲソウやクローバーなどマメ科の草は根に空気中の窒素を吸収して貯め込む根粒菌とやらを持つものが多いそうだ。窒素は肥料の三要素、窒素、リン酸、カリウムの筆頭。
レンゲソウの名は花がお釈迦様の蓮の台に似ているので付いた名。中国渡来。
昔、農家が買うレンゲソウの種の袋の中におまけの清酒の小さなビンが入っていた。おばさん達の楽しみだったと聞いた事がある。

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エンコウソウ キンポウゲ科

湿地や水辺に咲く。初夏に咲く花でここでは咲き始めだった。エンコウは猿猴。猿の総称だが昔は手長猿を指したという。花柄が長く伸びその先に花を咲かせる。その姿が手長猿に似ているのでついた名だという。
猿と云えば悪知恵イメージの筆頭。日光、中禅寺湖では土産物屋と土産物を狙う猿が知恵比べしている。屋久島では犬たちがポンカン畑で盗みに来た猿を威嚇している。可哀想は犬達。1メートル足らずの小屋につながれ人里離れたポンカン畑で絶え間なく来襲する猿めに吠えまくっている。唯一の楽しみは一日二度のドッグフード。
能「草紙洗」では小野小町が大伴黒主を「さてはおことは猿丸太夫の流れ、それは猿猴の名を以て我が名を外に立てんとや」と罵る。

能「草紙洗」は宮中での歌合わせの様子を作った能。王朝絵巻。着飾った男女の大宮人が居並び、まるでひな祭り。豪華絢爛に目を楽しませる。今では異次元の世界。ドラマもある。シテは小野小町。歌合わせの小町の相手は大伴黒主。黒主は小町に遠く及ばない。黒主は一計を案ずる。明日の歌合わせの為の歌を吟じる小町の歌を盗み聴きして、万葉集に入れ筆する。歌合わせ当日、黒主は入れ筆した万葉集の草紙を差し出し、小町の歌は万葉の剽窃だと訴える。ここで小町と黒主が罵り合う。やんごとなき大宮人の罵り合いが面白い。美女、小町の嘆きは更に美しい。小町の訴えに、万葉の草紙を洗う。黒主が書き入れた歌は綺麗さっぱりと流れ落ちる。面目を失った黒主は自害しようとする。小町は、歌の道に携わる者はこれ位の気概を持つべきだと黒主を慰め和解する。
小町は喜びの舞を舞う。小町は美人の代名詞。その舞が美しくないわけがない。
能「草紙洗」の詳しい解説はこちら


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05.07
Sat
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きすげ橋。浅間山を横断する道路の上に懸かった橋。下の道路は切り通し。名の由来は“武蔵野キスゲ”による。
2016年4月16日写す。以下同じ。

浅間山公園は、府中市と小金井市にまたがる広大な多磨霊園の西に隣接する都立公園。公園とは云っても自然の山に近い。人の手で花や木を植えていない自然の山。散歩道もほぼ踏み跡同然。頂上の浅間神社は祠程度だが神様が本当にいるような佇まいだ。訪ねる人は少なく町の雑踏に疲れた人や、静寂を求める人。都会には珍しい自然たっぷりの公園だ。雑木に被われ、草花は少なかったが珍しい花が一つ見つかった。この山の固有種、珍しい武蔵野キスゲはまだ咲いていなかった。

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キンラン ラン科

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ギンラン
金色に輝く花、漢字で金蘭。白花は銀蘭とよぶ。かつては雑木林などでよく目にする花だった。今ではめったに見られない。昔は林の落ち葉を堆肥にした。秋から冬、林は綺麗に掃かれ草花やキノコの楽園だった。化学肥料が出回って手のかかる堆肥は敬遠され、落ち葉を掃くこともなく、林は笹やシダなどが生い茂り草花やキノコが激減した。

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キジムシロ バラ科
漢字で雉筵。珍しい花ではない。至る処に咲いている。湿り気を好むようで田んぼの畦などにも多い。葉や花の形がイチゴにそっくりだがイチゴの様な実がならないのが残念。
ここのキジムシロは所を得たのか一段と色鮮やかだった。
九州の田舎のものは根が丸く太っていた。不思議に思っていたら同族のツチグリ、土栗だそうだ。東京近辺にツチグリはないようだ。引っこ抜いて見ても根は細い。所変われば品変わるだろうか。

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ヤマブキ バラ科
金の色を山吹色というが、頷ける。「七重八重、花は咲けども山吹の、実の一つだになきぞ悲しき」山吹と云えばこの歌。狩先で雨に遭った太田道灌が蓑を借りようとした。所の娘が山吹の枝を差し出した。実の一つは蓑一つ。この歌を知らなかった道灌は恥じて大いに発憤したという。よく知られた話しだが、なにやら出来すぎた話しに聞こえる。だがこの花を見るときまって思い出す。

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カントウタンポポ
あまりにもありふれた花。だが誰にでも愛されるロマンチックな花。歌やマンガに登場NO1では。日本のタンッポは西洋渡来のセイヨウタンポポに追っぱわれ町では見られなくなった。この頃雑種が町の中で多く見られるようになったように思う。
タンポポは外国語の様な響きだが、れっきとした日本語。二つ合わせれば小鼓の形。鼓草とも云うそうだ。タン、ポポは古くからの小鼓の擬音。小鼓は紐を手で握り、緩めたり張ったりして、様々な音色をだす。世界でも珍しい演奏法。その音色がタン、ポポだという。このタンポポ、つまり鼓ゆえに起こった悲劇を作った能がある、「天鼓」。

能「天鼓」は中国が舞台。
少年天鼓のもとに、打てば妙音を発する鼓が天から降り下る。これを聞いた皇帝は鼓を差し出すよう命ずる。天鼓は鼓を惜しみ鼓を抱いて山中に逃げる。皇帝は天鼓を探し出し鼓を召し上げ天鼓を呂水に沈める。皇帝は鼓を打たせるが鳴らない。鼓は主、天鼓との別れを惜しみ鳴らないのだろうと天鼓の父を召して打たせる。然るべきひとが打っても鳴らない鼓を自分が打って鳴る筈がないと疑いつつ打つ。鼓は妙音を発した。皇帝は親子の情故鳴ったのであろうと涙し父に数の宝を与え天鼓の後を管絃講で弔うことを約束する。
皇帝が降り下った天の鼓を呂水の岸に据え管絃講で天鼓の後を弔っていると天鼓の霊が現れ手厚い弔いに感謝し手向けの鼓を打ち鳴らし、呂水の波に戯れ舞を舞い夢か幻の如く消えていく。

前場に天鼓の父の深い悲しみを描き、後場では少年天鼓の若々しい喜々とした、躍動感溢れる舞を見せる。
理屈に合わなければ納得できない現代人には合点の行かない事柄がこの曲に二つある。
この曲に限った事ではなく、能では珍しくない作劇法だ。
一つは少年の父が老人ということだ。母親とは又違った老父の悲しみと愛情を描く手法と考えたい。
二つ目は理不尽に殺された少年が、弔いを感謝し喜々と舞を舞うと云う事だがこれも舞の面白さを強調する手法と理解したい。
能「天鼓」の詳しい解説はこちら


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