FC2ブログ
11.25
Sat
IMG_5163.jpg
小仏峠から八王子方面の展望。遥かに中央高速が見える
2017年11月11日写す。以下同じ


前日の天気予報では今日は曇りだった。山は雨もあるだろうと諦めていた。
朝起きたらお日様の気配。飛び起き、行き先も考えずとりあえず中央線に乗った。
高尾の駅構内でオニギリを二個買った。一個125円。
駅前のバス停に小仏行のバスが待っていた。折角待っていてくれたのだからと
行き馴れた所だが、これも何かの因縁だろうと迷わず乗った。
何時ものように小仏峠から相模湖を目指すことにした。
9時半過ぎ、小仏の登山口出発。


IMG_5154.jpg
アワコガネギク(泡黄金菊)キク科

この日を待っていた。お目当てだった。
小仏の中央高速側の斜面にあちこち咲いていた。
竹藪をもぐり、クズやススキのヤブをかき分け、滑り転びながら必死で近づいた。
名のように小型の花がびっしり泡立つように。成程なるほどと泡黄金。
花の形が可愛い。まるで飾りボタン。混じり気なしの黄色の泡立ちに圧倒され、
シャッター切るのも忘れ見入った。
数年前、陣馬山で会ったが今回は姿を消していた。
キクタニギク(菊谷菊)の名も。京都の菊谷で発見、命名されたとか。
“発見”が気になる。京都の菊谷だけにある訳ではなし、皆が見知って
いただろうにと思うが、だが学者の命名だから仕方ない。
栽培種の菊は黄色が多く見慣れて気がつかなかったのかも知れないが、
野に咲く黄色の野菊は珍しい。

IMG_5181.jpg
クロモジ(黒文字)クスノキ科

低木で色も黄色で目立たないが知られた有用の木だからか“お前も葉を落とすか”
と感慨しきり。和菓子などを食べるとき使う上等のツマヨウジの材料。
香りがいい。クスノキの仲間はシナモンなどのように、いい香りがする。
春の山の人気者、アブラチャン、屋久島、種子島に多いアオモジも仲間。
アオモジは香料の材料に切られ一時激減した。地元では“火用心の木”と呼ぶ。
この木の花が咲いたら、火の用心。この花の咲く三月は山火事が多かったそうだ。
これらの木、クスノキ科の親分、クスノキは匂いが強烈。
昔はクスノキから樟脳を作った。用途は色々らしいが、身近には防虫剤。
タンスに入れた。
クスノキは暖かい地方に多い。
昔、樟脳は薩摩藩の財源だったそうだ。米が不作の年や貧乏な農民は年貢米の
代わりに樟脳を焚いて納めたという。
薩南地方の一地方に“樟脳節”が残っている。
「樟脳じゃ樟脳じゃと下品にゃ、じゃんな」“げしなにじゃんな”、
持てる者が持たざる者をバカにする。貧農民の煩悶の声が聞こえるようだ。


IMG_5169.jpg
景信山山頂のにぎわい。

小仏で景信山から縦走の人に出会った。
一時間程だという。初めてだったので予定変更、行ってみることにした。
これが難儀の始まりだった。天気も回復、ちょっと足慣らしの筈だったのに。


IMG_5168.jpg
景信山での昼食。
オニギリは高尾駅で買った125円。現地調達は、
カンビール400円、ナメコ汁250円、キノコの煮物はお通しで無料。

昼少し前に景信山に到着、休憩兼昼飯にした。
オニギリは固くて不味かったが、カンビールとアツアツのナメコ汁が
助けてくれた。
カンビールのごく少量のアルコールも人の頭を狂わすらしい。
意志とは反対に休憩、昼飯もそこそこに足は陣馬山への縦走路に向かっていた。

IMG_5146.jpg
タマアジサイ(玉紫陽花)ユキノシタ科

アジサイは夏の花。ここはもう初冬。しかも弾ける寸前の蕾だった。
その生命力に驚かされた。
生きとし生けるもの、滅びの気に向かう時節に健気に美しく、感動、低頭。


IMG_5159.jpg
ジョロウグモ?

昆虫にはあまり興味がないが寒さの中、少ない獲物を待つ姿が哀れだった。
だが、よくよく見ると奇怪な足、黄色と黒の縞模様、異様な姿だ。
能「土蜘蛛」の作者もその姿を見て想を得たのかもしれない。

シカミ
「土蜘蛛」使用面「顰(しかみ)」鬼の相貌

病に苦しむ源頼光のもとに典薬頭の使いに美女が薬を届ける。
美女の言葉、振る舞いが頼光の様子を探るために遣わされた、
妖怪の化身のように味悪く見えてくる。
やがて怪僧に化けた土蜘蛛が不気味に現れ病身の源頼光に、
蜘蛛の糸を投げかけて襲う。
病に苦しむ頼光、現れた蜘蛛の妖怪、ただならぬ雰囲気の中に、
異様な空気が充ち蜘蛛の妖怪が投げる糸が異次元に誘う。

後場は頼光の配下と土蜘蛛の激闘が興奮を超え華やか。
5間、9メール程の細い和紙製の蜘蛛の糸が乱れ飛び、
追討の武士の身体に纏わり付く。迫力満点。
乱れ飛ぶ蜘蛛の糸は花吹雪に似て美しく、又豪快。
能の怪獣は激水を吹きかけ、火炎を激烈に吹く。
映画やテレビの怪獣の元祖。5番目、切り能の人気曲。

能「土蜘蛛」の詳しい解説はこちら


comment 0
11.18
Sat
171118_5129.jpg
五合目から見上げた富士山。山頂は見えなかった。
2017年11月10日写す。以下同じ

富士山は既に薄化粧だった。下界は晩秋でもここは既に初冬。
11月1日で閉山だとあった。
せめて六合目くらいまでは行きたかったが。
五合目の土産物屋の奥に恨みのバリケード、それも頑丈な。侵入不可能。
夏に訪ねた時は色々な花が咲いていた。亜高山、高山帯のガレ場にも
色々な花が咲いていて意外だった。
一合目辺りで咲き残りを探したが全く見つからなかった。

“富士は日本一の山♪”標高3776m、アメリカ独立宣言1776年と下三桁が同じ。
十二支一廻り+1、1789年フランス革命。
必死に覚えた少年の頃が懐かしい。

171118_5141.jpg
ナナカマドの実(七竈)

竈を知らない人は多い。今の世には縁遠いから当たり前。
かなり古いが、カマドで焚いたご飯が売り物のスキー場民宿に泊まった。
成程、なるほどと頷き何杯もお代わりした。
早朝パチバチとカマドで焚く薪のはぜる音が寝室まで聞こえた。
夢の世界にいる様だった。
ナナカマドは七回カマドで燃やしてもしぶとく燃え残るそうだ。

171118_5143.jpg
ヤマモミジ(山紅葉)カエデ科

二合目辺りで撮った。4、5合目にはカエデはないのか既に散ったのか
見つからなかった。
「金色のちいさき鳥の形して銀杏ちるなり夕日の丘に」昔教わった与謝野晶子の
歌が口を付いた。やはり紅葉といえば、カエデとイチョウが浮かぶ。
「くれないの(紅)、おさなご(幼子)の手の形して、紅葉ちるなり富士の麓に」
とふざけた。
“ぱっと開いた赤ちゃんのお手てのように可愛いナ」、童謡が浮かんだから。

「時雨を急ぐ紅葉狩り、時雨を急ぐ紅葉狩り、深き山路を訊ねん」
能「紅葉狩」の次第。
続くサシ、下歌、上歌は昭和天皇皇后の愛唱歌だったと聞いた事がある。
「紅葉狩」は五番目、鬼の能。平維茂の命を狙う戸隠山の鬼の物語。
美しい上臈に化けた鬼たちが戸隠の山中に幕を張り紅葉狩りの宴を設け、
鹿狩りに向かう維茂を待ち構えて篭絡する。昔も今も男は美女に弱い。
満山の紅葉や、宴の模様を謡う詞章が美しく、鬼の能とは思えない。
堅物の維茂も美しい上臈の舞に杯を重ね酔い伏してしまう。
何とも美しい舞台が展開する。
後場は鬼と武士の闘争。人には闘争本能があるのか全身が躍ってしまう。
アッと驚く型がある。“仏倒れ”。
八幡大明神に頂いた剣を振りかざす維茂の勢いに恐れた鬼は、岩によじ登り
逃げようとする。維茂が引き下ろす。
枯れ木が倒れるように直立のまま倒れる、危険きわまりない型だ。
脳震とう覚悟で挑む。


171118_5131.jpg
フジアザミ(富士薊)キク科

たいがいの草や木は花が終わると形を変えた実になる。
アザミの花は、形はそのまま、美しかった花色は無残に失せて枯れ残り、
花の遺骸が種を抱く。
世の習いとは言いながら滅びゆく者の無惨、哀れにしみじみと感を催す。
無惨の能がある「砧」

171118_kinuta.jpg
「悲しみの声、虫の音、ほろほろ、はらはら、いずれ砧の音やらん」

訴訟で京に上り、三年も帰らない夫を恋々と待つ妻。
中国の故事を思い出す。異民族に囚われた夫を案じ妻は子と共に高楼に登り
砧を打つ。妻と子の心は砧の音に乗り遥かの夫に届く。
折しも都の方に北風が吹く。故事のように、都に届けと妻は砧を打つ。
「砧の音夜嵐、悲しみの声、虫の音、ほろほろ、はらはら、いずれ砧の音やらん」
卓抜の詞章、緩急に想いを込める見事な作曲。
帰郷の期限に夫は帰らないと知らせが届く。妻は失意の内に病を得、冥土へ赴く。
夫は妻の死を「無慙やな三年過ぎぬる事を怨み引き別れにし妻琴の」と悔恨する。
   
能「紅葉狩り」の詳しい解説はこちら、「」はこちら

comment 0
11.11
Sat
171111_060.jpg
多摩川と是政橋 2017年10月27日写す。以下同じ。

是政橋は多摩川の河口の羽田から32キロ、府中市と稲城市の間に架かる橋。
昔は“是政の渡し”があったそうだ。
多摩川は秋も半過ぎ、花も少なかった。
多摩川はみんなの憩いの場。土手にはサイクリングやジョギングコース、
河川敷には野球、サッカーの練習場、バーベキュー施設、芝生などがある。
流れには釣り人、アユも釣れる。処々に林もありクルミや柳などの大木が茂る。
林の中には瀟洒な庵もある。庵は静かな林の中、前は清らかな多摩川の流れ、
羨ましいかぎりだ。羨ましいから建てたい。
庵の材料は足場用の鉄パイプとブルーシートだった。材料が安いから建てられる。
だが地主は国土交通省、ウンと言う筈がない。

171111_5064.jpg
チカラシバ(力芝)イネ科

花穂の形と紫がかった黒が謎めいている。もし人の背丈ほどもあって、
夕暮れ、薄暗い処で出会ったら、女性と見間違うかも知れない。
能では旅の僧の前に話しかけながら美しい女性が現れる。
能「定家」では“時雨の亭”に立ち寄った僧に、
「のう~のう~。その宿りへは何とて立ち寄らせ給ひ候ぞ」と現れる。
「呼びかけ」といい「杜若」や「六浦」など呼びかけで現れる曲は多い。
能の作者はチカラシバに暗闇で出会い想を得たのかも知れないと勝手に思ったり。

チカラシバは根の張りが異常に強い。引っこ抜くには相撲力士並みの力が要る。
だから力芝だそうだ。

道端や野原に咲いているが町中には咲かない。

171111_5073.jpg
シロノセンダングサ(白の栴檀草)キク科

アウトドア派の人は、草原で遊んでいて細長い黒い実が衣服にくっ付いて
困った経験があると思う。犯人はシロノセンダンソウの実。
花弁のない小栴檀草(コセンダングサ)も同じ様にくっ付く。
沖縄には花弁の大きいタチアワユキセンダングサ(立淡雪栴檀草)がある。
この花の蜜はミツバチの好物。
沖縄の人はミツバチが苦労して集めた蜜を蜂から横取りする。
その蜜を叉お金で横取りする。ミツバチは誰を一番恨むだろうと
つまらない事を考えた。

171111_5058.png
セイタカアワダチソウ(背高泡立草)キク科

悪名高い花だが花の少ない時期には有難い。
名に釣られ、しげしげと見る事はなかった。だがよくよく見るときれい。
それもその筈、昔アメリ原産を観賞用に植えたそうだ。
親しまれる、アキノキリンソウ(秋麒麟草)に感じが似ているからだろう、
セイタカアキノキリンソウ(背高秋麒麟草)の別名もあるというが悪名が、
祟ったのかこの名を耳にも目にもしたことがない、可哀そう。
悪名は他の草には毒の物質を出して自分だけはびこるからだそうだ。
海岸近くの埋め立て地や空き地を占領している。
二次大戦後、炭鉱の閉山が相次ぎ跡地にはびこったり又ベトナム戦争後、
急激に蔓延ったので、閉山草、ベトナム草の名もあるそうだ。
ますます悪名が轟いたという。可哀そう。
だが“悪”だけではない。秋、花の少ない時期に盛大に花を咲かせ蜂を呼び、
養蜂家を喜ばせる。
お釈迦様の教えに「善悪不二」がある。世の中、善も悪も同じだ、と言う
ことだそうだ。善悪不二はセイタカアワダチソウ、お前の悪名にも当てはまるぞ
と云ってあげたい。

171111_5074.jpg
カキ(柿)カキノキ科

柿、これほど身近で親しまれる果物はない。多くの庭先に植えてある。
「柿くえば鐘が鳴るなり法隆寺」よく知られた正岡子規の句。
二十数年前の記憶で、さだかではないが仲間と能の跡を訪ねる
「謡跡めぐり」に奈良を訪ねた。
たぶん門前に柿を売っていたのだろう、洒落た事を致しますネと買い、
境内の石段に腰かけ食べたが洒落たつもりで待っても鐘は聞こえて来なかった。

「カキに赤い花咲く、いつかのあの家♪」小学生の頃習った唱歌。
我が家の庭先の柿の木には赤い花など咲かなかった。
艶々のきれいな実だからきっと遥かな山の向うの里には赤いきれいな花の咲く
柿木があるのだろうと思っていた。
「柿に赤い花咲く」は「垣に赤い」だと気が付いたのはそれ程古くはない。
われながら苦笑も出るが子供の頃が思い出されて懐かしい。
野菜や果物の花はほとんど豪華で美しい。
柿はどうゆう訳か地味だ。地味を通り越して花には見えない。
地味故見向きもされない。何とも可哀そう。艶やかな実になるのに。

地味故に捨てられた可哀そうな女性の話が「源氏物語」にある。
朱雀帝の皇女、女二宮。夫は柏木。柏木は蹴鞠の会で二宮の妹、
光源氏の正妻でもある女三宮を見染め、二宮は捨てられる。
能に作られた。「落葉」

171111_ochiba.png
能「落葉」
「さやけき月に妄執の夕霧」執拗に迫る夕霧にたじろぐ落葉の宮

「もろかづら、落ち葉を何に拾いけん、名は睦ましき、かざしなれども」
葵祭に頭に飾る葵と桂の葉のように仲のいい姉妹だが、どうして落ち葉の
様な二宮を妻にしたのだろう、と云う意味だそうだ。柏木のひどい歌。
以来世間では二宮を落葉の宮と呼んだ。
柏木は三宮への恋心を抑えられず密通、三宮は柏木の子を出産する。
やがて光源氏の知る処となる。源氏の執拗ないじめと、罪の悔恨から、
柏木は病床に伏し源氏の子でもある友、夕霧に後を託し亡くなる。
堅物で通っていた夕霧だったが、なにくれとなく落葉の宮の面倒を
見ているうちに宮に惹かれていく。

能「落葉」のクセでは、小野の里に引きこもった落葉の宮を訪ねた夕霧が
恋情を切々と訴える。
つつましい落葉の宮の心は終に解けず夕霧は暁の時雨の中をすごすごと
帰って行く様を情緒豊かに描く。
キリでは、庇護者の亡くなった我が身の行く末を思い、
夕霧に添うしかなかった落葉の宮が「さやけき月に妄執の夕霧、
身一つに降りかかり目もくれないの落葉の宮はせんかた涙に咽びけり」
と狂乱の態をみせ涙を誘う。

能「落葉」の詳しい解説はこちら
comment 0
11.04
Sat
1104_3709.jpg
八島ケ原湿原 2017年9月30日写す。以下同じ

八島ケ原湿原は美ヶ原やワラビ採りの帰り休憩がてらに寄る。
駐車場の奥を下ると小さな湿原があり八島ケ原湿原だとばかり思い込んでいた。
しばらく行かなかったので自信がなくカーナビに従った。
とんでもない所に連れていかれた。道は途中で車通行禁止。仕方なく歩いた。
途中で会ったハイカーに聞いたらここは八島ケ原の対岸だという。
いつもの駐車場が表口だった。湿原はいつも行く小さな湿原の反対側だった。
人の思い込みは怖い。無性に腹が立った。
眼下に広がる広大な湿原!立った腹は湿原の彼方へすっ飛んで行った!

1104_4995.jpg
ハンゴンソウ(反魂草) キク科
散りかけの花だった。花弁がバラバラについているのが面白い。
背丈は大きく真っ黄色の花が湿原をバックに咲いている姿は存在感たっぷり。

反魂草とは、おどろおどろしく、曰くありげな名。
能「花筐」では、前漢の孝武帝が亡くなった寵妃の霊を反魂香を焚いて、
呼び寄せるという曲舞「李夫人の曲舞」を舞う。
「夜更け人静まり、風すさまじく、月明なるにそれかと思う面影の、あるか、
無きかに影ろえば、なほ弥増しの想いぐさ」
ゾクッと背筋に霊気も冷気も走る。
昔、日本にも反魂草を焚いて魂を呼び寄る呪術師がいたのだろうか。

1104_4992.jpg
サラシナショウマ(晒菜升麻) キンポーゲ科
キツネの尻尾のような白い長い花穂が魅力。
長いものは30センチ位はあるかも知れない。
若芽を茹で水に晒して食べることで付いた名だという。
アクがきついのだろうか、それでも親しまれる山菜なのだろう。
更科升麻だとばかり思っていた。連想するから。
純白の長い花は寂しげ。姨捨山に咲く花に似つかわしいと思うから。
姨捨山は長野県の更科にありよく知られている。
姨捨の伝説は各地にあるらしい。
深沢七郎の「楢山節考」はベストセラーになった。映画化もされた。

更科山は平安の昔から聞こえた月の名勝でもあるという。
「わが心、慰めかねつ更科や、姨捨山に照る月を見て」を種に、
能「姨捨」を作った。「楢山節考」や映画の、捨てられた老女の死の残酷、
人の抑えられない情念を一切切り捨て、月の光に比えて清らかに昇華させた至高の名作。
残念ながら最奥の曲であること、高度なテーマであることで上演は限られている。

1104_4950.jpg
オヤマボクチ(雄山火口)キク科

名前もヘンテコだが姿も変梃りん。思わず笑ってしまう。
きれいとは云い難いが愛嬌があり一度見たら忘れられない。
雄山は何処かの山の名だろうが問題は火口。いくら頭をひねっても分からない。
それもその筈、今の人には全く馴染みがない物だった。
火は人の生活に欠かせない。簡単に使えるが昔は大変だった。
火打ち石で火を起こした。火打石の頼りない火花で火が付く物、
これが火口(ほぐち)だそうだ。オヤマボクチの葉で作った。
蕎麦打ちのツナギにも使うそうだが火口から想を得たのだろうか、
人間は賢いナとつくづく思う。

昔は旅立ちや戦いに赴く時、火打ち石の火花で清め安全を祈った。切り火。
今は旅も飛行機や新幹線、戦いの武器も核兵器に象徴されるが如くだ。
切り火を信用する人はまずいない。切り火の祈りも消えた。
だが一つだけしぶとく残っている。
能「翁」に。幕切りの直前に幕の間から切り火を打ち舞台を清める。

1104_002.jpg
白式尉、翁の面

1104_001.jpg
黒式尉、三番叟の面

能「翁」は天下泰平、国土安穏、五穀豊穣、を祝福、祈念する能であって、
能にして能に非ずと云われ神聖な能と云われる。
立ち役以外は第一級の礼服、素袍(すほう)を着る物々しさだ。

三人連調の小鼓につれて翁は、
「とうとうたらりたらりら、たらりあがりららりどう」と謡う。
意味、出典は分からないという。呪文の類に聞こえ身が引き締まる。
「鶴と亀との齢にて」とつづけ長寿を祈願、祝福する。
控えていた千歳が立ち「鳴るは滝の水、日は照るとも」と謡い、
颯爽と「千歳之舞」を舞う。昔は農耕社会だった。雨露の恵みを祝福する。
千歳之舞の内に翁は面を着ける。翁の面には神が宿っている。
翁の身から神格が現われる。厳粛な翁の舞「神楽(かみがく)」を舞う。
舞終わり面を外し舞台正面に出、深々と辞儀、幕に入る。翁が帰りという。
通常の能はこれでおわる。だが「翁」は続きがある。飄逸味のある舞、三番叟だ。
直面で「揉之段」、黒式尉の面を着け「鈴之段」をにぎやかに舞う。
厳粛な空気を和らげ賑やかに豊かな祝言色が横溢、楽しませてくれる。

詳しい能「」の解説はこちら、「姨捨」はこちら

comment 0
back-to-top