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10.15
Sat
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男体山 2016年9月30日 いろは坂で写す。

山岳霊場。二荒山とも。荒々しい山肌は堆積した火山灰の崩壊が激しく修復の後が大怪我した人の、外科手術の縫合の後のように生々しかった。

九月の終わり奥日光を訪ねた。秋の気配はあったが紅葉は未だし、だった。
東照宮、輪王寺は数回訪ねたし、このところ急増した外国の観光客に譲りパスした。
いろは坂を登った。登る車が少なく沿道の草花を探しながらでも登れたが目ぼしい花は見つからなかった。急峻なうえにヘアピンカーブだ、そうそう見つかる筈もないが。
展望台で車を止め下界を眺めた。幾重にも重なる深い緑の山々、谷間に人家がちらほら。不思議な物思いに引き込まれた。

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フサフジウツギ フジウツギ科 2016年9月30日写す。以下同じ

いろは坂の上り近くで見つけた。人が植えたとも思えない所に二本だけあった。大型の豪華な姿に感動した。房藤空木。日本の固有種の藤空木よりも房が大きいところから付いた名だろうか。中国原産の栽培されていたものが、逃げ出し野生化したものと考えられていたが日本にもあることが分かったそうだ。奥秩父の谷川の岸壁によく似た空木が咲いていた。あまりきれいだったので、頂こうと努力したが、さしもの絶壁に登る手立てがなかった。心が大いに残った。

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野菊(1) キク科

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野菊(2) キク科

ユウガギクとシロヨメナ?かも知れない。この類いの花は野菊と総称されるそうだ。素人には見分けが付かないので野菊としておこう。野菊は薄紫、白、黄色、とりどりの色で秋の野山を飾る身近な花だ。清純な乙女にも例えられ、歌にうたわれ物語の題材にもなった優しい花。珍しい花ではないが、秋の到来を実感するのに沢山摘んで飾ることにしている。

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華厳滝 

中禅寺湖の水を落とす滝。和歌山の那智の滝にも匹敵する美しく豪快な滝。霊山、二荒山を仰ぎ見る場所にあり霊気漂う華厳の滝に、那智の滝の様な注連縄がないのが不思議だ。
滝壺近くにはエレベーターで行く。たまたま修学旅行の子ども達の団体に占領されて諦め、駐車場近くの観滝台から眺めた。
華厳滝は自殺の名所でもあるそうだ。明治の末頃、夏目漱石の教え子、一高の学生藤村操がこの滝に飛び込み自殺した。以来有名になり自殺の名所になったそうだ。彼が滝の上の大木を削って書き残したという遺書風の「巖頭之感」は有名だが、浅学菲才の身には彼の心中に近づくことは無理。
能にも自殺を主題にしたものがある。源平の争いに敗れた平家方の武将、平清経が「この世とても旅ぞかし」と諦観、入水した「清経」や、帝の寵愛を失い猿沢の池に身を投げた「采女」、恋にやぶれた老人が池に身を投げた「綾鼓」などがある。

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「打てや打てやと攻め鼓、寄せ拍子」女御をせめ立てる老人の幽鬼

老人は人生の辛酸を舐め尽くし、これらを消化しつつ時を待つ人々だ。
長寿は人間の悲願。長く辛酸を舐め、医療技術の乏しい時代に病苦を凌ぎ、生き延びて来た老人は尊敬され、物語では神格化されもした、重い存在だったのだ。現在では「老人の日」として形骸を残すが。
能「綾鼓」は老人の恋の物語。時は600年代の飛鳥時代。人の恋は時が移り形は変わっても質に変わりはない。芭蕉がいう不易流行の一つだろうか、人間の持つ最たる情念だろう。
下層の老人の恋、相手は女御。女御は皇后、中宮に次ぎ更衣の上に位した高位の身分。
深刻な恋心も消化済の筈の老人の恋、おもしろい設定だ。若い純粋な男の恋より深く重く迫る。女御という設定も同じような理由によるのだろう。

「後の世の近くなるをば驚かで老いに添えたる恋慕の秋」老人の述懐は悲痛この上もない。福岡県朝倉郡に天皇の行宮があり庭の名池、桂の池の畔で御遊が催された。庭掃きの老人が女御の姿を見て恋慕の情に落ちる。伝え聞いた女御は池の畔の桂の木に鼓を掛けさせ、老人に打たせ、その音が御殿に聞こえたならば再び姿を見せようという。老人は心を尽くし鼓を打つ。鼓は鳴らなかった。綾を張った鼓だった。鳴る筈がないのだ。絶望の老人は桂の池に身を投げる。
女御は老人をなぶったのだ、というのも頷けし作者の意図もそこにあるかも知れない。
「思いや打ちも忘るると。綾の鼓も音も我も出でぬを人や待つらん」自分への恋心を忘れさせようと鳴る筈もない綾の鼓を打たせたのにそれでも私を待っているのだろうか。女御はこう云う。遥々奈良から馴れない筑前の仮の行宮まで下って来たのだ。そのうえ数多の妃と寵を争わなければならない。老人を気遣う暇はない。女性の優しさを信じて、こう思いたい。
廷臣が女御に顛末を報告する。老人の怨霊は女御の憑き祟り、女後は桂の池の畔に彷徨い出る。池の中から老人の亡霊が浮かび上がり女御に鳴らぬ綾鼓を打てと恐ろしい形相で迫る。怨霊は泣き叫ぶ女御の姿を背に炎の如き情念と共に池の中に沈んでいく。
古い話だが、二世金剛巌のツレ、女御を勤めた。小面の狭い視野に迫る悪尉の面を掛けた巌の鬼気が今も脳裏から離れない。
能「綾鼓」の詳しい解説はこちら
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