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12.02
Sat
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陣馬山からの眺め。2017年11月11日写す。以下同じ

急に時間が空き所在無なさに足は自然に歩き馴れた裏高尾に向いていた。
高尾山は東京周辺の人達の憩いの場。表高尾は大勢の観光客で賑わう。
裏高尾は観光客は少なく静か。少々珍しい花も咲く。
裏高尾から高尾山山頂はパス、相模湖に出るつもりだった。
小仏峠に、関東ふれあいの道、と書いた道標があり、陣馬山まで10数キロとあった。
高尾山から小仏峠、景信山を経て陣馬山まで、親しまれているハイキングコースらしい。
ホウ~と横目で見た。行くつもりはさらさらなかったから。
たまたま景信山から下りて来た人に出会った。登り一時間程、いい眺めだと云いう。
生来のせっかち、挨拶もそこそこに登り始めていた。
景信山でお昼をたべ、小屋の売店で買った缶ビール一本飲んだ。
缶ビールには魔物が住んでいるらしい。たった一本でいつの間にか、
意志とは逆に足が勝手に陣馬山コースに向いていた。

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リンドウ(竜胆) リンドウ科

リンドウは秋を代表する花。花期も終わりに近いが、葉も花色もみずみずしく、
辺りに花の気配もない登山道のヘリにたった一株だけ咲いていた。
リンドウの茎は細く花の重みに耐えられないのか倒れ伏していた。
ハイカーに足蹴にされたのだろう少し傷ついていた。
そっと向こう側に向け枯れ枝で支柱をしたが、まだ無事に咲いているだろうか。

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ツルリンドウの果実(蔓竜胆)リンドウ科

年配の女性がしゃがみ込んで写真を撮っていた。
ツルリンドウの実だった。ツルリンドウも秋の花だが八月から咲く。
既に花は終わり真っ赤な実になっていた。
真っ赤な実はみずみずしく、きれいで美味しそうだった。
リンドウは名のように竜のキモのように猛烈に苦く胃の薬だそうだが、
ツルリンドウはどうだろうか、どんな味か食べてみたかったが、
見物人が集まったので涙を飲んだ。

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明王峠小屋とモミジ

紅葉は小屋の主が植えたのだろう、大木になって小屋に覆いかぶさる
ように見事だった。小屋の前には十数人が休んでいた。
小屋は廃屋に近かった。主が老い、又は亡くなり後継者もなく廃業したのか、
又は客が金を使わず儲からないので廃業したのだろうかと勝手に想像した。
休んでいるハイカーも何となく落ち着かない様子でウロウロ。
同じ様に小屋の主に想いを寄せ世の無常を痛感しているのではと、
九割方冗談だが。

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陣馬山口バス停前の飲み屋

景信山から陣馬山まではハイキングコースも整備されアップダウンはあったが
歩きやすかった。
陣馬山から陣馬山口のバス停までのコースが酷かった。
見下ろす急斜面、ゴツイ木の根っこ、石、岩ゴツゴツと恐ろしかった。
下り始め、既に三時を廻っていた。
飛んで下りる若者のグループを必死に追いかけた。
多分バスの時間に間に合わせようと飛んでいるのだろうと思ったから。
到着、三時二十三分。遠ざかるバスの後ろ姿が見えた。三分遅れで涙、涙。

次のバスまで一時間待ち。五,六人のグループが飲み屋に吸い込まれた。
飲み屋のオヤジ、これを狙っているのだな、マ、世の中お互い様だからと
変な理屈でグループに続いた。
先ず、生ビールをたのんだ。580円。
鹿の肉1200円、カブの和え物600円、旨そうだったので頼んだ。
地元の醸造倉の銘酒と派手に書いてあったのが目に付いた。
これでは飲まざるを得まいと注文。マスの中にグラス、マスにあふれた。
一杯680円。
一杯1,3合とあったが店の中を隈なく三辺ほど見回しやおら飲むうちに
無くなった。亭主には悪いが、本当に1,3合?と疑った。
もう一杯注文、飲み終わったらピタリと一時間、外でバスが待っていた。

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センニンソウ(仙人草)の種 キンポーゲ科

仙人草は夏から初秋にかけて低木などを覆うように
小さな花を沢山咲かせ、まるで天女の羽衣のように豪華でききれい。
花が終わり天女の羽衣は実となって名前の様に仙人のヒゲに変わる。
仙人のヒゲはやがて空を飛び、見知らぬ地に下り立ち、
芽を出し花を咲かせて天人となり、実となってヒゲ仙人となる。変幻自在!
羨ましい変わり身。

中国の砂漠のオアシスの町、敦煌の莫高窟に羽衣を翻して、
飛んでいる天人の天井画があった。
天女の初期の絵は初め手足をバタバタ動かして飛んでいたが、
後に羽衣を着て飛ぶようになったと説明を聞いた。
羽衣の起源は莫高窟の絵で解る、へエ~と目からウロコだった。

能「羽衣」では天女が美しい羽衣をひるがえして舞う。
「羽衣」は現行曲、二百数曲の中で上演頻度、1,2を争う人気曲。

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“左右左、左右颯々の花をかざしの天の羽袖、靡くも返すも”
羽衣を靡かせ舞いつつ月の世界に帰って行く天女(左右左は舞の動き。
能の基本形の一つ」

早春の三保の松原。釣りに向かう漁師の白龍が、のどかな早春の景色を謡う。
渚の波の音、松を渡るそよ風、かすむ水平線、雪を頂く富士。
「及びなき身の眺めにも心空なる景色かな」白龍はこう謡うが、
こちらも風流心などある訳は無いが三保の致景が眼前に浮かんでうっとり。

どこからか妙なる音楽が聞こえ、花が降り、薫風が流れてくる。
驚く白龍が辺りを見回すと松の枝に美しい衣が掛かっている。
漁師の白龍には縁遠い美しい衣だった。美しいのは当然、天女の羽衣だったのだ。
喜んだ白龍は魚釣りはそっちのけ、家の宝にしようと取って帰ろうとする。
「なう~なう~」遠くからかすかに声が聞こえ、不思議な姿の女が現れる。
“呼び掛け”と云い、役の登場のときよく使われる能の演出法。
女は天女だった。
天女の返却要求に白龍氏はガンとして応じない。国の宝にすると云う。
国立博物館が巨額で購入するのは受け合い。何しろ誰も見たこともない天人の羽衣だから。
漁師などサッサと止めて孫子の代まで安楽に暮らせるのだ。
だが白龍氏は現代人と違って心優しいのだ。
「涙の露の玉鬘、かざしの花もしほしほと天人の五衰も目の前に見えて浅ましや」
天人の嘆きに耐えられず白龍氏は羽衣を返すことにする。
穢れなど無い天人の清らかな魂が人間白龍の魂を洗ったのだ。

白龍は交換条件に天人の舞楽を所望する。
天女は羽衣を着て“東遊びの駿河舞”を舞う。
この舞は今でも神社や宮中で舞われる舞楽として伝わっているという。

天女はまず月の世界の様子を語る。
白い衣を着た天人15人、黒い衣を着た天人15人、交代で出仕して舞を舞う。
白の天人15人が揃うと満月、黒い衣15人で真っ暗闇。
成程、角龍氏も合点。

天人の“東遊び”の舞は「クセ」と「序ノ舞」、続く「破ノ舞」で表され、
月の世界に似た三保の絶景を賛美し舞う。
「落日の紅は蘇命路の山を映して」
信仰心の厚かった昔の人は夕日に染まる富士の高嶺を須弥山に見立てて
思い浮かべ、涙したかも知れない。

時移って天女は簫、笛、琴、箜篌の妙音の中、羽衣を靡かせ、人間界に宝を降らせ、
三保の松原、愛鷹山、富士の高嶺を眼下に月の世界に帰って行く。
何とも美しい光景だ。見送る白龍の姿が印象的だ。
天女の宝は今も降り続いているかもしれない。“物”が溢れている今の世では、
「七寶充満の宝」ではなく希薄となった清らかな"心"かも知れない。
能「羽衣」の詳しい解説はこちら
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