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12.16
Sat
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長尾平からの景観 11月25日写す。以下同じ

海から内陸の山に向けて細長く伸びる東京都、その先端部分が奥多摩。
深い渓谷に添って青梅線が走る。
土曜、休日に特急電車が走。都心から終点奥多摩駅まで一時間少々。
御岳山の登山口は終点近くの駅、御岳駅から近い。
多くの人達が心身の洗濯に訪れる。

御岳山山頂から少し下だったところに長尾平がある。
尾っぽの様に出っ張った尾根と云うのが名の由来らしいが、
船にも似て、洒落た形に出っ張った尾根だ。
舳先に物見台があり、周囲は草原っぱ。
空は底抜け、見晴らし抜群だった。
2,3のグループが持参のコンロで料理を作っていた。
飲み物の缶を片手に笑い声が充満、仲間のハイキングなのだろう和気合々
楽しそうだった。
武蔵坊弁慶が安宅の関での危機を凌ぎホッと一息、関守富樫が差し入れた酒で、
催した路傍での酒宴もかくやとばかりだった。

能は謡と舞の面白さを重きに置き、自ずと演劇性が希薄の作品が多い。
能「安宅」は演劇性たっぷり、それも息を呑むシーンが二つや三つではない。
そのうえ弁慶の延年の舞を模した舞が抜群。弁慶は鞍馬寺の延年の舞の名手だった。
岩手県の一関に毛越寺がある。庭園風の“大泉が池”が美しい。
池の対岸に“曲水の宴”を催したという曲水が残されていた。
難を逃れ平泉に辿り着いた義経、弁慶一行はここでの曲水の宴に招かれ、
弁慶は得意の延年の舞を舞ったかも知れないナと思いを馳せていたら、
曲水の水勢が勢い付いたように見えた。
能「安宅」は歌舞伎にも取り入れられている。「勧進帳」
幕末の頃、宮様の肝いりで金剛太夫が相伝したという。

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コアジサイ(小紫陽花)の実 ユキノシタ科

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コアジサイ(小紫陽花)の花 2017年6月2日、御岳山で写す

掌状に咲くのはアジサイに似ている。白い小花が集まって咲く。
アジサイの仲間というが、本家のアジサイの豪華には少々遠い。
日の光の少ない木陰に咲き、百花繚乱の初夏に咲くので猶更目立たない。
花の少ない冬に咲けば皆に喜ばれるのにと思う。地味好きには清楚が魅力。
既に初冬、無惨に枯れ残り清楚を偲ぶ術もなかった。
世の人は事ある毎に平等を叫ぶが世の中に不平等は満ち満ちている。
コアジサイと同じように不平も云わず日陰にひっそりと暮らす人は少なくない。
能の「芦刈」の主人公もその一人。

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落魄した夫を難波の浦に探し求める妻

「芦刈」は落魄の夫と出世した妻の物語。
落ちぶれ男の能には他に「鉢木」がある。鉢木の男は領地を身内に
横領されて落ちぶれたが「芦刈」には落ちぶれた理由の説明がない。
「鉢木」は“落ちぶれ”が主題だが「芦刈」では落ちぶれの理由は重要ではない。
遊狂物と呼び芸の面白さを見せるのを目的とした能だから。

零落、落魄、落ちぶれ男は妻と離別せざるを得なかった。
妻は都に上がり、さる高貴な家の乳母に出世するが夫を忘れかね安否を嘆く。
主人の計らいで夫を訊ね、難波の浦にやって来る。
夫はこの難波の浦で旅人に芦を売り細々と暮らしている。
芦の花は花といえるほどの花ではない。
よほどの風流人でなければ買うはずがない。
妻の従者は風流人だった。芦売り男に興味を持ち芦を買うという。
二人は芦について風流談義を始める。
この曲の眼目“笠之段”の導入部だが風流談義は中々の味わいだ。

笠之段は難波の浦の景色を面白く見せ眼目の笠尽くしの舞に続ける。
笠を縦横に使い優雅に流麗に舞う。“ドジョウすくい”とは次元が違う。
笠尽くしの舞は“小歌”拍子で謡われる。
小歌は中世の歌謡、能には「花月」「放下僧」「芦刈」三曲に取り入れている。
笠は菅で作る。菅も芦も生える処は同じ、その縁だろうか。
芦売り男は旅人に風流談義を持ち掛け俄か風流人に仕立て上げ
面白く舞を舞い芦を売り付けていたのだ。
妻は芦売り男が夫であることに気付く。ご対面となるが夫は驚き、
小屋に逃げ帰り、己の境涯を恥じ小屋に閉じこもる。
小屋の内と外で夫婦の愛の問答。万葉の時代の“歌垣”もかくやとばかりだ。
芦売り男の名は左衛門、妻の従者がいう、
「いかに左衛門殿、都より烏帽子、直垂を持たせて候」
左衛門は烏帽子、直垂を着て喜びの舞を颯爽と舞う。
山之内一豊も顔負けの内助の功の物語だがそれにも増して、
現行の能、二百十数番の中にこれほどのメロドラマは見当たらない。

能「芦刈」の詳しい解説はこちら、「安宅」はこちら


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