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08.18
Sat
霧ケ峰は長野県の中ほどにある2000メートル弱の山。
なだらかなピークが弧を描き、全斜面草原。
山腹をドライブウェイ、ビーナスラインが走り美ヶ原高原に至る。
四季折々、百花繚乱の美しい山。

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日光キスゲ(日光黄菅)別名ゼンテイカ(禅庭花)の群落 ワスレグサ科
2018年7月20日写す。以下同じ

花に興味の薄い人でも日光キスゲの名は知っていると思う。
歌に歌われ有名。
日光キスゲといえば尾瀬の群落が昔からよく知られている。
最近、テレビで尾瀬の日光キスゲが鹿に食べられて激減したと報じていた。
ここ霧ケ峰もご多分に漏れず激減。
鹿の侵入を防ぐ電線を張りめぐらした防護柵の中だけに咲いていた。
驚き桃の木山椒の木とはこの事。口あんぐり。
つい数年まえまでは夏の霧ケ峰は全山黄色に染まったのにと、
土産物屋のおねえさんがボヤいていた。

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ハクサンフウロ(白山風露)フウロソウ科

風露とは何とまあ、、、とため息。その風雅な姿から名付けたのだろうか、
ピッタリの名。
ゲンノショウコのごく近い仲間だそうだから薬効があるかも知れない。
ゲンノショウコは代表的な民間薬。
その薬効は“現の証拠”と云われるほど即効。
白山は霊山。山伏の修験場として知られている。
昔、白山で修行した山伏が、白山の霊験あらたかな薬草だと、
マイヅルソウ(舞鶴草)など町の人は見たこともない珍しい
白山の高山植物を売ったそうだ。勿論ハクサンフウロもあったと思う。
昔、白山は憧れの信仰の山だった。

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コオニユリ(小鬼百合)ユリ科

鬼とは納得がいかない。花弁に黒ずんだ斑点があるからだろうか。
斑点がチャームポイントだと思うが。
ヤマユリにも斑点がある。
ヤマユリの交配種、カサブランカは斑点がない。
ノッペリに見える。やはりヤマユリの方が魅力的で大好き。
人間にだって“そばかす美人”という言葉があるのだ。

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クガイソウ(九蓋草)オオバコ科

紫の小花が動物の尾っぽの形に咲く。葉も形が整いきれいだ。
葉の付き具合が仏具の天蓋に似ていて九重にも重なっていることから付いた名だという。
辞書によると“蓋”とは「人間の善智や善心を覆い隠すもの、つまり煩悩」だとある。
人の最大の煩悩は昔も今も愛欲なのかもしれない。
愛欲の果て鬼になった女性を描いた能に「葵上」「鉄輪」がある。
「鉄輪」は市井の女の嫉妬を赤裸々に描いた能。
自分を捨て新しく娶った女と枕を並べる前夫。
鬼と化した女が恥も外聞もかなぐり捨てて添い寝の二人を襲う。
人の煩悩の神髄をあからさまに見せる。

「葵上」は高貴な女性の嫉妬。
女性の名は“六条御息所”源氏物語の中の人だから架空の人物。
源氏物語は世界初めての長編小説、未来永劫出ないであろう傑作と云われる。
当時、噂になった“事件”を題材にしていて、内容の芸術性はともかく、
昔の週刊誌だと喝破した人がいるそうだ。
六条御息所もモデルがいたのかもしれない。

六条御息所は皇太子妃だった。
皇太子が亡くなり家は傾く。
「我、世に在りし古は、雲上の花の宴、春の朝の御遊に馴れ
仙洞の紅葉の秋の夜は、月に戯れ色香に染み花やかなりし身なれども
 衰えぬれば朝顔の日陰待つ間の有様なり」御息所の嘆きだ。
この時代は主を失うと家は衰亡の道を辿ったという。
源氏物語にも幾例かあるそうだ。
この窮状の中、源氏が御息所の元に通うようになる。

源氏の正妻、葵上が懐妊、気晴らしにと加茂の祭り見物に行く。
沿道は行列見物の牛車で満杯。
葵上は左大臣の娘でありその上人気絶頂の光源氏の正妻だった。
葵上の供の人達は源氏の権勢を頼み、御息所の車を後ろに押しやり、
その前面に葵上の車を据える。“車争い”と呼ばれる事件。
源氏の愛も薄れはじめ、車争いの恥辱と葵上への嫉妬は燃え上がっていく。
御息所は元皇太子妃という高貴な人。嫉妬など下賤の者の所業などあってはならない。
押さえても魂は生霊となって勝手に体から抜け出し葵上を襲う。
「もの思えば、沢の蛍も我が身より、あくがれ出る魂かとぞみる」
藤原保昌に振られたと思った和泉式部の歌だそうだ。
昔は人の魂は体から離れるものだと思っていたのだろうか。
御息所の生霊は下賤の女の所業、“後妻打ち(うわなりうち)”に向かう。
「今の恨みはありし報い、瞋恚(しんい、怒り)の炎は身を焦がす、
 思い知らずや思い知れ」
面は“泥眼”怨みを湛えた生霊の面、打杖を振るい葵上を打ち据える
押さえに抑え抜いた果ての高貴な女性の“後妻打ち”に戦慄が走る。
「枕ノ段」と呼ばれ、この曲の核。
葵上は舞台の正面先の置かれた衣で表される。
能では現代劇のように直接的な演技はしない。
主題を煮詰めて神髄を見せ、人の想念に訴える。

源氏物語には煩悩に苦しむ女性が様々登場するという。
煩悩の行方も又様々に興味深く描かれているという。
人間、蓋の下に苦しみ生きるのが定めなのだろうか。
九蓋草の紫の花色が、人の身体から滲み出た苦しみの色に見えてくる。

葵上
「思い知らずや思い知れ」後妻(うわなりうち)の所業におよぶ葵上

能「葵上(あおいのうえ)」の詳しい解説はこちら

鉄輪(かなわ)」はこちら


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