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07.05
Fri
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報国寺山門 2019年6月17日写す。以下同じ

目を剥く数々の人々が山門に吸い込まれていった。
「見仏、聞法の数々。順逆の縁はいやましに、日夜朝暮に怠らず」
能「東北(とうぼく)」のクセの一節が浮かんだ。
日頃、意味は朧気に、仕事だからと謡っている。
“仏を見、仏の教えを聞く人々はますます増えて夜も夕も朝も夕も
勤行を怠らず”と云う意味だそうだ。
今の世、これだけの信仰の人々がと驚いた。
十数年前初めて訪れた時は鬱蒼とした木々の中に溶け込むように建つ堂宇、
まるでお堂の仏様が散歩に現れるのではないかとさえ思われる雰囲気のお寺だった。
この寺は竹林でも知られている。竹林を前にした瀟洒なお茶屋が人気。
信仰はさておき、山門をくぐる人達のお目当ての一つかも知れない、
などと穿ったような物言いは失礼ですが。
山門はくぐらなかった。無信心はさることながら他に目的があったから。

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イワタバコ(岩煙草)イワタバコ科 イワタバコ属

鎌倉のイワタバコが気になっていた。
奥多摩や秩父、丹沢の渓谷よりも早く咲く。
鎌倉には山の中の水気のある岩肌などにも咲く。
民家の石垣にも咲いていた。
どうして鎌倉にイワタバコが多いのか知らないが、
イワタバコは花弁が厚く形が夜空にきらめく星のよう。
“星月夜”は鎌倉の枕詞、彼女達はこの枕詞を知っているのかもしれない。
報国寺周辺は特に多い。藪を掻き分け探すよりも楽だから、報国寺の仏様には
申し訳ないがお参りはそっちのけで毎年、六月初めを目途に訪れる。

イワタバコは岩ジシャの名もあるという。好き者は珍重する。
胃の薬と云われるだけあって苦い。若い葉も試したが苦い。
やはり好き者の食べ物、葉がタバコの葉に似ているから付いた名だという。
だがそれだけではなさそう。なにやら怪し気な雰囲気も似ている。

遥かな昔、田舎でタバコを栽培していた。
タバコの葉はネバネバしていて手にくっ付き気持ち悪かった記憶がある。
葉を乾燥室で乾燥して専売公社に納める。
乾燥室の中は刺激的な異臭が充満していた。
中で作業していたおばさんが倒れた。
運び出されたおばさんの顔は血の気が無かった。

二十三才の頃、毒と知りながら煙草を吸い始めた。
人並みに格好つけたかったのだろう。
同業の先輩に喉を使う者がタバコを吸うとはとたしなめられた。
おばさんの顔を思い出しながら散々苦労の末、一年かけて止めた。

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ヤマユリ(山百合)ユリ科

大きな花、白い花弁に赤黒い斑点、強烈な香り、数ある百合の
中で魅力NO1。黒い斑点もアバタもエクボ、チャームポイントでもある。
まさかかこんなに早く山百合が咲いているとは思わなかった、ビックリ。
明治の初め頃ヨーロッパの万博でヨーロッパの人達を仰天させたそうだ。
輸出が始まり日本中の山から山百合が消えかかったそうだ。
球根は高級食材。色々の百合の中で山百合の球根が一番おいしいそうだが
食べたことはない、花を思うと食べられない。
今は昔、お爺さんとお婆さん、ではなく茨城の田舎に住む義弟と
山百合の球根を掘りに行った。かなりの花が咲いていた。
何やら異様な叫び声が聞こえる、振り向くと鎌を振り上げたお婆さんが
駆けよって来た。ほうほうの態で逃げ帰った。
山は国有林だったがお婆さんが手入れしていたのだろう。
堀りたかった球根は食べるためではなく庭に植えるためだった。
事情を話せばお婆ちゃん一つや二つ許してくれたかもしれない。
嘘のようなホントの話。
だが山百合は人間嫌いな花。植えても二、三年で消えてしまう。
後で知ったが。

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テイカカズラ(定家葛) キョウチクトウ科

岩や木に絡みつく。名の由来となった謂れが面白い。
鎌倉時代にもストーカーがいた。それも超有名人、天才歌人藤原定家。
後白河天皇の皇女、式子内親王への恋に落ちた。
式子内親王の死後、定家の執心は葛になり内親王の墓石に絡みついたという。
この花の清らかな色、形、豊かな香り。なんとまあ気の毒な名を奉られたのだろう。
可哀そうこの上もない。

能「定家」で二人の恋が強烈に、ショッキングに語られる。
定家の強烈なストーカー紛いの執念に内親王は折れたという。
定家が建てたという時雨の亭(ちん)に雨宿りする僧の前に現れた女、
二人の壮烈な恋を語る。常人には及びもつかない恋に羨望(?)とも
感激ともつかない想いを誘う。灰をかき混ぜるお婆さんの話じゃないが(?)
「玉の緒よ絶えなば絶えねながらえば、忍ぶることの弱りもぞする」
秘めた恋を人に知られる事を恐れた内親王の歌。玉の緒は命のこと。
女は定家葛の這い纏わる内親王の墓に消える。女は内親王の霊だった。
定家の執心は死後も内親王の墓石に絡みつき内親王を苦しめる。

僧の前に再び現れた内親王の姿が凄まじい。
着ている衣は在りし日の姿だが顔が物凄い。邪淫の罪で地獄に堕ち苦み
憔悴した顔の痩せ女の面、内親王の霊は僧にこの姿をご覧下さいと云う。
僧は法華経、薬草喩品を読む。この経の功徳で心無い草木も成仏する。
内親王を縛っていた定家葛もほろほろと解け内親王は感謝の「序ノ舞」を
舞う。序ノ舞は通常は優艶な女の舞、地獄の苦しみの面、痩せ女で舞う
舞は血も凍る想いに苛まれる。
内親王の霊は「月の顔ばせも曇りがちに桂の黛も落ちぶるる涙の」
といい置き元の墓に帰って行く。墓はまた定家葛に覆われる。
内親王の霊は再び地獄に帰り定家蔓に縛られ苦しみを受けるのだろう。
救いのない結末。これ程の恋は止めて置こう、などと冗談はとても云えない。

定家
報恩の舞を舞う憔悴した姿の式子内親王の霊

能「定家」の詳しい解説はこちら

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